企業には、研修、会議、セミナー、広告、製造現場の記録など、日々大量の動画が蓄積されています。
例えば、「あの説明、研修動画のどこで話していたっけ?」「先日の会議で価格について話した場面を探したい」「公開前の広告動画を一通りチェックしたい」――。
企業で動画を扱っていると、必要な情報を探すために、結局人が動画を最初から見返すという作業が発生しがちではありませんか?
「動画を保存する」ことと「動画の中にある情報を活用する」ことは別問題なため、必要な場面を探すために何十分、何時間もの動画を見返す作業は、担当者にとって大きな負担になり得ます。
今回Googleが発表したGeminiの「Agentic Video Understanding」は、こうした動画解析の課題に対する新しいアプローチです。
従来のGeminiの動画処理では、動画を一定のフレームレートでサンプリングして解析する「static processing」が使われていました。一方、Agentic Video Understandingでは、AIが動画のタイムラインを探索し、質問や目的に応じて必要な部分を選択しながら解析します。
つまり、動画全体を一定の条件で一律に処理するのではなく、AI自身が「どこを、どのように見るべきか」を判断しながら動画を調べるという考え方です。
Googleの発表によれば、この仕組みによって、トークン消費量や解析コストを大幅に削減しながら、動画理解の精度も向上させられるとしています。
最大88%のトークン削減、コストは最大66%削減
Agentic Video Understandingで特に注目したいのが、動画解析に必要となるリソースの削減です。
Googleが公開したベンチマークでは、従来の動画処理と比較して、トークン消費量を最大88%、解析コストを最大66%削減しながら、解析精度を最大7%向上させたとされています。
ここで重要なのは、「動画AIの性能が単純に向上した」というだけではない点です。
長時間の映像をAIに解析させる場合、動画の長さに応じて処理対象となる情報量も増えていきます。特に研修動画、講義、会議録画などを大量に処理する場合、AIモデルの性能だけでなく、どれだけ無駄なく必要な情報を処理できるかがコスト面で重要になります。
Agentic Video Understandingは、この部分をAIによる動的な探索によって効率化するアプローチといえます。
なお、これらの数値はGoogleが示したベンチマーク上の最大値です。実際の削減効果は、動画の長さや内容、質問内容、利用するモデルなどによって変わります。
動画を「全部見る」のではなく、必要な場所を探す
Agentic Video Understandingを理解するうえでポイントになるのが、動画内を動的に探索する仕組みです。
従来のGeminiの動画処理では、動画を一定の間隔でサンプリングして解析する「static processing」が使われます。シンプルである一方、長尺動画になるほど処理対象となる情報量が増えていきます。
例えば、2時間の会議録画から「営業部長が新商品の価格について話している場面を探して」と指示した場合、動画全体を細かく解析する必要があると、処理コストも大きくなります。
Agentic Video Understandingでは、AIが動画のタイムラインを探索しながら、必要なフレームやトランスクリプトなどを選択して処理します。
そのため、長尺動画の中から「必要な瞬間を探し出す」というタスクとの相性が良いと考えられます。
長尺動画の「瞬間検索」に強い
Googleが具体的な能力として挙げているのが、動画内の特定の瞬間を高速に検索する「moment retrieval」です。
例えば、数時間に及ぶ動画に対して、次のような質問を投げかけることができます。
- 「製品のデモンストレーションが始まる場面はどこ?」
- 「講師が○○について説明している場面を探して」
- 「画面にエラーが表示された箇所を特定して」
- 「特定の人物が登場する場面を探して」
GoogleはAgentic Video Understandingによって、こうした動画内の特定シーンを1秒未満で検索できる能力を示しています。
単純に動画全体の要約を生成するだけではなく、「動画のどこに、何があるのか」を探す用途で力を発揮するのが特徴です。
異常検知や対象物のカウントにも活用
Agentic Video Understandingの用途は、シーン検索だけではありません。
Googleは、異常検知の精度向上や、対象物・動作の正確なカウントなども能力として挙げています。
例えば製造現場の映像であれば、通常とは異なる状態が発生した場面を探したり、映像に登場する対象物の数を確認したりする用途が考えられます。
これまで人間が動画を早送りしながら確認していた作業の一部をAIに任せることで、動画データを業務データとして活用しやすくなる可能性があります。
対応モデルと利用方法
Agentic Video Understandingは、複数のGeminiモデルで利用できます。
2026年9月時点では、Gemini 3.7 Flash、Gemini 3.6 Flash、Gemini 3.5 Flash-Liteが対応モデルとして案内されています。
APIを利用する場合は、Agentic処理を指定することで利用できます。Interactions APIでは、処理方法としてprocessing: "agentic"を指定します。
実際のシステムでは、動画の保存方法やアップロード処理、API利用量、解析結果の保存・検索方法なども設計する必要がありますが、動画解析そのものは既存のAI基盤に組み込みやすい点も特徴です。
企業ではどんな用途が考えられる?
社内研修・教育動画
社内研修では、数十分から数時間に及ぶ研修動画を保存している企業も少なくありません。
これらの動画から、「新人向けに○○について説明している場面を探す」「この研修の重要ポイントを抽出する」といった処理をAIに行わせれば、研修コンテンツの再利用がしやすくなります。
会議録画・オンラインミーティング
会議の録画を保存している企業では、「あの話はどの会議で出たのか」「価格について話していた場面はどこか」といった検索ニーズがあります。
テキスト化された議事録だけではなく、動画そのものを検索対象として扱えるようになれば、会議データの活用方法も広がります。
広告・動画コンテンツのチェック
広告動画やプロモーション動画など、公開前に内容を確認する必要がある映像にも応用が考えられます。
例えば、特定の商品が登場する場面や、指定された表現が含まれている場面などをAIに検索させるといった使い方です。ただし、コンプライアンスや法的判断をAIだけに委ねるのではなく、人間によるチェックを支援する仕組みとして利用することが重要です。
「動画はAIに食わせるだけでもコストが高い」を変える可能性
今回のAgentic Video Understandingで興味深いのは、AIの「賢さ」だけではなく、AIに渡す情報量そのものを効率化しようとしている点です。
生成AIを業務に導入する際、モデルの性能や回答精度に注目しがちですが、大量利用する段階では「1回あたりいくらかかるのか」「処理時間はどの程度かかるのか」といった運用面も重要になります。
特に動画はデータ量が大きいため、AI活用を検討していても、コストや処理負荷を理由に導入を見送るケースも考えられます。
そうした意味では、動画をAIで理解させる際の入力トークンや解析コストを削減するAgentic Video Understandingは、企業の動画AI活用を後押しする可能性があります。
Agentic Video Understandingが常に最適とは限らない
一方で、Agentic Video Understandingがあらゆる動画解析において常に最適というわけではありません。
Googleは、短い動画でレイテンシーを重視する場合や、動画全体をフレーム単位で細かく確認したい場合などには、従来のStatic processingが適するケースも示しています。
つまり、動画の長さや解析したい内容、求める処理速度などに応じて、Agentic processingとStatic processingを使い分けることが重要です。
まとめ:動画AIは「全部解析する」から「必要な場所を探す」へ
GoogleのAgentic Video Understandingは、単純に動画解析の精度を高めるだけのアップデートではありません。
AIが動画の中を探索し、必要な情報を選択しながら解析することで、長尺動画を効率的に扱おうとする仕組みです。
Googleのベンチマークでは、トークン消費量を最大88%、解析コストを最大66%削減しながら、精度を最大7%向上させています。
もちろん、これらはGoogleが示したベンチマーク上の最大値であり、実際の削減効果は動画の長さや質問内容、利用するモデル、API利用量などによって変わります。
それでも、これまで「動画はデータ量が大きく、AIで大量に処理するにはコストが高い」と考えていた企業にとっては、検討する価値のある技術でしょう。
社内研修、会議録画、製造現場、広告・コンテンツ管理など、企業内にはすでに大量の動画データが蓄積されています。
これらを単なる「録画ファイル」として眠らせるのではなく、AIが必要な情報を探し出せる企業ナレッジへ変えていく。Agentic Video Understandingは、そのための選択肢の一つになりそうです。
今後、動画AIの活用を考えるうえでは、「AIに動画を見せられるか」だけではなく、「AI自身に動画の中から必要な情報を探させられるか」という視点も重要になってくるのではないでしょうか。

